小学校 道徳教科書の東京書籍  新しいどうとく(小学校)の教材、「新しい日本に~龍馬の心」の内容です。

小学校 道徳教科書

東京書籍  新しいどうとく

新しい日本に~龍馬の心

内容項目 主として集団や社会との関わりに関すること
伝統や文化の尊重、国や郷土を愛する態度
6年生
1.本教材について ▼本教材は幕末の尊王攘夷運動家で薩長同盟実現の中心人物であった坂本龍馬を扱った偉人伝である。 小学校道徳教科書には明治維新を美化した教材がいくつかあるが、これもその教材のひとつである。坂 本龍馬は非常に人気が高く、ドラマでもたびたび取り上げられているので、子どもたちもよく知ってい るかもしれない。
▼この教材は前半が薩長同盟ができるまでの歴史的背景の説明で、後半は坂本龍馬の行動と暗殺される までを説明しているが、まず、この歴史的背景の説明がでたらめである。冒頭、「鎖国から開国へ」とい う部分では「日本は周りを海に囲まれているため、外国とつきあう機会が少なく、昔から人々は、外国 人を異人、夷人とよんでけいかいし、遠ざけていました」と書かれているが、この「昔」というのはい ったいいつのことを指しているのか。本当に日本はずっと閉鎖的だったのか。
▼確かに「海に囲まれているため、外国とつきあう機会」は多くはないが、それでも太古以来、多くの 人々や文物が渡来してきたと歴史教科書も伝えている。古代に日本が国家としての体裁を整えていく過 程には多くの渡来人がかかわっていたし、遣隋使・遣唐使も送っていた。戦国時代の末期から安土桃山 時代にも南蛮貿易が盛んで、多くのスペイン人、ポルトガル人が来航していたし、日本人は東南アジア に進出して日本町まで作っていた。
▼鎖国をしていた江戸時代においても4つの口(長崎、対馬、薩摩、松前)を通じて、絶えずオランダ、 中国、朝鮮、琉球、アイヌと交易し、朝鮮とは通信使を互いに送り合っていた。江戸時代には外国人が日本を自由に往来することはできなかったが、その代わり多くの若者が長崎に行き蘭学を学んだ。決して一方的に「外国人をけいかいし、遠ざけていた」わけではない。
▼にもかかわらず、なぜこんな書き方をしているのか。それは江戸時代を閉鎖的な時代と印象づけ、明 治維新を新しい国づくりのための良き改革として印象づけようとするからであろう。しかもこの教材で は、「新しい国」は「天皇を中心とした国」であることが強調され、「天皇」という言葉が8回も出てく る。明治維新による封建社会から近代社会への大きな変革が、幕府中心か天皇中心かという点に単純化 されているが、明治維新は江戸時代に300以上の藩に分かれていた地方分権国家がひとつに統一され、 中央集権国家になり近代化への一歩を踏み出したことをはじめ、多様な変革を伴うものであった。
▼この教材ではなぜ江戸時代が遅れた時代で、なぜ明治維新が良い改革であったのかは説明されていな い。そもそも先に開国しようとしたのは幕府であって、天皇と朝廷は開国に反対する勢力であったこと も明確には説明されていない。にもかかわらず、幕府は「いくじなし」とされ、長州藩と薩摩藩は「天 皇を中心とした新しい国づくり」をしようとした正義の勢力として扱われ、仲の悪かった両藩を結び付 けた坂本龍馬を英雄として称えるのである。
▼この教材だけでなく、そもそも歴史的評価の分かれる人物の偉人伝は、道徳の教科書にはふさわしく ないと思われる。特定の人物の特定の側面だけを取り上げ美化し、子どもたちのロールモデルにさせよ うとするのは無理がある。坂本龍馬は決して“平和の人”ではなく、討幕派の武器商人として幕末の内 戦に深く関わっていたという側面もある。「命の大切さ」を教える道徳教科書で取り上げること自体が不 適切である。
2.本教材を扱う際に、特に注意すべきこと ▼この教材は道徳教材なので、歴史認識そのものを扱うものではない。しかし坂本龍馬のような歴史的人物を扱うにはどうしても歴史的背景の説明を欠かすことはできない。ところがこの教材ではその歴史的背景の説明がデタラメで、なおかつ特定の価値観で語られ歪められている。したがって、この歴史認識の部分を補足することがどうしても必要である。
▼この教材は東京書籍の道徳教科書の中でも後半に教えるようになっているが、歴史学習を終えてから 扱うのが適当である。またこの教材はあまりにも内容が偏っているので、授業では扱わないことも考え られる。
指導案はPDFをご覧ください。ダウンロードできます。
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