中学校 道徳教科書の学校図書 輝け 未来(中学校)の教材、「希望のビザ(学校図書2年 p.190)」の内容です。

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希望のビザ(学校図書2年 p.190)

内容項目 主として集団や社会との関わりに関すること
国際理解、国際貢献
学校図書 中道徳2年-1
1.本教材について ▼本教材は杉原千畝の人道的行為の意義を伝える偉人伝である。中学校道徳教科書では、「教育出版」「東京書籍」「学研教育みらい」「日本文教出版」「学校図書」「日本教科書」の6社が杉原千畝を取り上げている。杉原の行為は当時の世界的な厳しい政治状況に抵抗しておこなわれたものなので、当然それとの関係で杉原の行動の意義を明らかにしなければならない。ユダヤ人たちはなぜリトアニアをはじめとするヨーロッパ諸国から脱出しなければならなかったのか、杉原がおこなったビザの発給についてはユダヤ人の側にどんな困難な事情があったのか、当時の日本とドイツ・イタリアなどの同盟国との関係という歴史的背景を伝えることによって、杉原の決断の意義がいっそう明確になる。
▼杉原千畝に関する教材は、小学校道徳教科書でも4社(「日本文教」「光村図書」「光文書院」「教育出版」)が6年生で取り上げている。このうち「日本文教」と「教育出版」は中学校でも取り上げているので、これら2社の教科書で学んだ子どもたちは中学校で再度学ぶことになる。教材の内容からして、第二次世界大戦について学んだのちに杉原千畝の業績について学んだ方がより深くその意義を理解しやすいであろうから、中学校で学ぶのが適切だと考えるが、小学生でも授業者が歴史的背景を補足すればもちろん理解は可能である。小学校で杉原千畝の教材をどのように扱うかについては、小学校用「もうひとつの指導案」に掲載しているので、そちらを参照していただきたい。
▼ところで小学校道徳教科書では杉原千畝の教材について4社のうち3社に検定意見がつき、杉原千畝のビザ発給を日本の外務省が許可しなかった理由について記述が改悪された(小学校指導案参照)。中学校道徳教科書でも6社のうち3社(「東京書籍」「学校図書」「日本教科書」)に検定意見がついたが、「東京書籍」「日本教科書」についてはいずれも表記の誤りに関するもので、記述内容に関する検定意見がついたのは「学校図書」だけであった。ドイツとの「防共協定」について触れている記述に検定意見がつき、「学校図書」は記述を変更した。文科省は小学校同様、当時の日本がナチスドイツやイタリアと同盟関係を結んでいたことを明確に記述することをやめさせたのである。
▼ところが奇妙なことに「教育出版」「東京書籍」「学研教育みらい」は当時のドイツとの関係や松岡洋右外務大臣の方針、「防共協定」などについて明確に記述しているにもかかわらず、文科省は検定意見をつけなかった。なぜか。それはこの3社は杉原千畝の妻であった杉原幸子の手記そのものを掲載したからと考えられる。さすがの文科省も妻の手記を改ざんさせることまではできなかったようである。その結果、実にちぐはぐな検定がなされたのであった。詳しくは[資料1]参照。
▼「学校図書」は検定を受けて記述を改悪し、「日本教科書」はそもそもビザを発給できない理由を数の多さに一面化しているので、歴史的背景とユダヤ人避難民に対する当時の日本政府の方針について補足説明が必要である。他社もそれほど詳しく記述しているわけではない。当時の杉原の置かれた状況の困難さと決断の意義を鮮明にするために、[資料2]を参考にして補足してほしい。
▼戦後の杉原について何社かは記述しているが極めて不十分である。したがって戦後、杉原が外務省を解雇されたこと(表向きは依願退職)や、のちに杉原がイスラエル政府から表彰されたことなどを[資料3]を参考にして補足してほしい。
▼杉原千畝を取り上げている6社のうち5社は、「内容項目」のうち「国際理解、国際貢献」を学ぶ教材として位置づけているが、「日本教科書」だけは「遵法精神・公徳心」を学ぶ教材と位置づけている。しかし、杉原千畝の行為は“規則を守るか否か”にまとめ上げられるものではなく、困難な国際情勢のなかで決断をしたことに意義があるので、やはり「国際理解、国際貢献」を学ぶことに重点を置いて授業を進めてほしい。
▼杉原千畝の教材を2年生で扱っているのが3社、3年生で扱っているのが3社と分かれている。2年生で扱う場合は、社会科の第二次世界大戦の学習後にやるのが望ましい。
▼最初にも述べたように本教材は杉原千畝の偉人伝である。実在の人物には多様な側面があり、特定の側面のみを取り上げて「偉人」として子どもたちの道徳的なロールモデルにしようとするのは基本的に避けるべきであろう。1940年の杉原の行動が人道上いかにすばらしい行動であったにせよ、である。実際、杉原がユダヤ人たちに大量のビザを発行したのは単に人道上の理由からだけではなかった。ポーランド人をソ連の情報を集めるスパイとして使っていた杉原は、ポーランド人との関係を良くしておく必要もあったからである。杉原は複雑な国際情勢の中で、日本の国益のために働く冷徹な外交官でもあった。しかしだからといって杉原の行動の意義は少しも損なわれるわけではない。杉原の行動は外務省の命令を無視したものであり、自分の進退をかけてでも人道上の観点からユダヤ人の人権を守ろうとした行動であった。今日では広く知られることになった杉原千畝の1940年夏の困難な決断と行動を学ぶ教材として、本教材を活用したい。
2.本教材を扱う際に、特に注意すべきだと考えたこと ▼杉原千畝の教材において子どもたちに最も考えさせたいことは、自分の信念と所属集団あるいは国家 の方針・命令とが異なった時、どのように考え行動するのかである。杉原は立派な人物だったと感動 するだけに終わらせず、杉原の立場だったら自分はどうするかを考えさせたい。
▼しかし、杉原の行動のみを「正解」であるかのように前提にすることは避けるべきである。困難な状況の中では人は簡単には決断できないし、決断の内容も異なる。したがって、「国の命令に逆らうことはむずかしい」とか「自分は杉原のように解雇覚悟でビザを出すことはできない」と考えることもふくめて、互いの葛藤から学び、オープンエンドで終わらせ、真剣に考えたことをもって評価したい。
指導案と資料はPDFをご覧ください。
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