小学校 道徳教科書の東京書籍  新しいどうとく(小学校)の教材、「これって「けんり」?これって「ぎむ」?」の内容です。

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これって「けんり」?これって「ぎむ」?

内容項目 C.主として集団や社会との関わりに関すること
規則の尊重
5年生
1.本教材について ▼本教材は大きく二つに分かれている。前半は 簡単な事例を4つ(①~④)あげて、どんなことが権利と義務にあたるのか説明している。この部分をAとする。後半(p68,69)は、あるクラスの学習発表会についての話し合いの場面で、この具体例によって「ちょっと複雑な『けんり』と『ぎむ』を考えてみよう」とよびかけている。この部分をBとする。本指導案ではA、B各1時間で授業を行う。
▼本教材Aでは、身近なことを「権利」と「義務」という言葉を使って考えようとしている。通常小学生が余り使うことのない言葉を使って考えるのは難しい。しかし、「権利」とか「義務」という言葉は今後社会科などでも使われる言葉なので、言葉の本来の意味を踏まえながら。「権利」という根拠は何か、「義務」という根拠は何かということを吟味していきたい。
▼権利という言葉は「ある利益を主張し、これを享受することのできる資格」(大辞林 三省堂)、「一定の利益を主張し、また、これを享受する手段として、法律が一定のものに賦与する力」(広辞苑 岩波書店)という意味で使われる。本教材でも同じである。 ▼①のケースについて 「あなた」は本の持ち主なので、その本の扱いについては自由に決める「権利」がある。貸すのも自 由だし、返してという「権利」もある。「持ち主」という資格があるからだ。貸すとか返すという関係 だとあいまいになってわかりにくければ、AさんがBさんにものを売ったと考えて欲しい。Aさんが Bさんに代金の支払いを請求するのは「権利」である。この「権利」が保障されないと商売は成り立 たない。当たり前のことだが、Aさんの「権利」を尊重するのはBさんの「義務」だ。
▼②,③,④のケースについて  権利を持っているのが2人以上の場合はどうだろうか。一つのゲームを兄弟で使う場合は、兄弟なのだ からあうんの呼吸で済むかもしれないが、学校の生徒全員が対象だとそうはいかない。校庭では、その学 校の生徒ならだれでも自由に遊ぶことができるし、学校のボールを自由に使って自由に遊ぶこともでき る。その学校の生徒という資格があるからだ。それは生徒の正しい要求、すなわち権利である。ただ、校 庭ですべての生徒が自由に遊ぶことができるかどうかは、わからない。すべての生徒が自由に遊ぼうとす ると、窮屈だったり、遊び方によっては危険だったりするかもしれない。またけんかになって勝ったもの だけが遊べることになってしまうかもしれない。そこで、ルールを作ることになる。ルール作成にあたっ ては、年齢に応じて子どもの参加が必要になるし、参加に際しては対等性、平等性の保証が前提である。 ルールの導入によって制約が生まれるが、その制約を皆が受け入れるにかわりに子どもたちの「校庭で遊 ぶことができる」という権利が保障されるのである。この場合は、ルールが有効であるためには皆がこの ルール守る必要がある。
▼学校には「権利」を余り強調しない傾向がある。「権利がある」ということは、好き勝手にする、と同 義ではない。「グランドを使う権利」「ボールなどの用具を自由に使う権利」などがあることを、まずは ルールに書くことが必要である。
▼教材Aが例として挙げている「権利」は、広辞苑等が定義しているように資格や、法律が力を賦与する ことが必要である、ということを含んでいる。そのため普遍的に認められるものではない。状況に応じて 認められたり認められなかったりするのである。しかし人間には、人間というだけで生まれながらに持っ ている権利がある。「基本的人権」とよばれるものである。人間だというだけで他に資格も、法律に力を 付与される必要もない普遍的な権利である。基本的人権については6年生で学習するのでここでは、そう いう権利の存在に気づいてもらえるような問いかけをすることにとどめたい。
▼教材にもあるように「人が生きていくうえで『けんり』はとても重要である(p.66)」。このことを具体的に理解するために参考3に掲載した9の権利―あなたはどの権利が一番重要だと思いますかー」を行うことを提案したい。このエクササイズを行い、権利の重要性を具体的に理解するとともに一人一人が様々な価値観を持っていることを理解した上で、教材Bに進んでほしい。
▼Bは、要点のつかみにくい内容である。メインキャストは10人とされているが、村田さんだけを推薦する声が出て、村田さんが「都合が悪い」というと「自分勝手」という声が出ている。このままではクラス全体の雰囲気で村田さんにメインキャストが押し付けられてしまいかねない。まるで同調圧力を期待しているような展開になっている。後述する「学習指導要領特別活動編解説」が懸念する通りである。
▼したがって、教材Bを生徒とともに読み込んでいくにあたっては、まずは村田さんへの同調圧力がかからないようにしていくことが重要である。
▼Bにはいくつかの前提がある(参考1)。前提は変えることはできないか、まず吟味したい。その上で、たとえば練習日を他の日に移すことはできないのかなど、「皆が参加しやすいやり方」を検討したい。
2.本教材を扱う際に、特に注意すべきと考えたこと ▼教材Aの4事例を扱う際は、何が「権利」で、何が「義務」なのかを、子どもたちとともに確認したい。
▼教材Bには「村田さんとクラス全体、それぞれの『けんり』と『ぎむ』はなんだろう」「学習発表会を 成功させるために、クラスのみんなにとって大事なことはなんだろう」というまとめの問いがある。「ク ラス全体」の「けんり」や「ぎむ」は、いつどのように確認されたのだろうか。教材Bを読む限りでは、 クラス全体の権利は何かを確認する場面はない。「クラスの権利」が吟味なしで優先されるようなことは 避けたい(下記学習指導要領解説編参照)。
▼メインキャストの一人に村田さんを推薦する意見はあったが、村田さんは断っているし、少なくとも一人は村田さんの意見に同情的である。村田さんが断ったことについて出た「自分勝手」という声は、挙手をして言った意見でもないようだ。この流れも押さえておきたい。
▼最後の、学級委員の田中さんの発言は、取りようによっては、メインキャストの10人がすでに決まっ ているようにも聞こえるが、教材Bを読む限り誰も決まっていない中で村田さんの名前だけが出てきてい る。田中さんのまとめが、クラスの権利を前提にしているように聞こえることにも注意したい。
▼学習指導要領特別活動解説編では「集団づくりにおいて,『連帯感』や『所属感』を大切にするあまり,ともすれば,教師の期待する生徒像や集団の姿からの逸脱を許容しないことで,過度の同調圧力につながりかねないという問題もあった。」と指摘されている。本教材を扱う際にも注意すべき点であろう。特に村田さんが集団の圧力によってユタ役を引き受けるようなことになることは避けなければならない。
指導案と参考資料はPDFをご覧ください。
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